2012年11月15日

料理バカのお店が嬉しい

以前横浜のあるフランス料理店のシェフが言っていた、「こんな仕事をしているなんてバカしかいないですよ」という言葉が今でも印象に残っています。確かに長時間労働で休みもろくにない、一日中陽も当たらない場所での立ちっぱなしの仕事、好きでないとやっていられません。おまけに特に下っ端は低賃金、フランスなどで星付きのレストランで修業する若者は今でも無給で働いているそうです(その代わり経歴にハクが付きますからね)。

よく仕事が目一杯で自宅に帰る余裕がなく、店に寝泊まりをしているという話を聞きます。私の大好きな「サラマンジェ」の脇坂さんも特に開店当初はそうだったようですし(今は知りませんが)、先日のテレビで見た「ル・マンジュ・トゥー」の谷さんもそういう生活を今も送っているようです。ちなみにこのお店はずいぶん前に訪れたときと違い、店内外も改装され、スタッフも増え、価格帯も上がり、営業時間も限られたようです。

それにしても嬉しいのは、業界でメジャーな存在になっても無闇に店舗を増やさないことです。自分の目の行き届かない範囲には広げないという哲学に好感が持てます。正確な情報はわかりませんが、私の今知る限りこの路線をフランス料理で行っているのは「北島亭」の北島さん、「ラ・ブランシュ」の田代さんであり、このお三方は「フランス料理にもの申す」という本で鼎談を行っています。

この谷さんについてはもう一つ、専門学校での講義の話が思い出されます。各地の調理師専門学校ではよく外部講師を招きますが、街場の料理人が赴くと本来の人材育成という目的と外れて単に自分のスペシャリテを披露しているだけだと指摘していたことがありました。谷さんはそうした場に行くと料理の話の前に店の運営や経営者としてのあり方の話を延々とするそうです。ただうまいものを作っているだけではダメだというその思想には大いに共感でき、本来の人材育成の目的にも叶っていると思います。

一消費者にとってはお客さんを喜ばせることよりも金儲けに走る料理人のお店ではなく(誰とは言いませんが)、こうした良い意味での料理バカのお店に行きたいものです。良い意味というのは、料理しか知らない専門バカということではなく、料理にこれほどまでもエネルギーを注ぐのかということで、そういう人は得てして料理以外にも通ずるところがあると思います。

思えばジビエの季節、しばらく食べていないジビエ、田舎暮らしの今となっては改めてどこで食べようかと急に悩み始めました。
posted by bourbon_ueda at 00:00 | Comment(0) | 食をめぐる報道
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