客単価が張るレストランでは、供する皿自体にもそれなりに高いものを使っています。それをオーナー自らならまだしも、働いているスタッフが忙しさのあまり厨房で割ってしまうことが度々あります。そこでオーナーはどうするか、これまで聞いたその対処方法の開きに驚きます。
大きく分けると怒るか怒らないか、割ってしまったスタッフを厳しく叱責するシェフもいました。また、その実費を給料から差し引くというオーナーもいました(労働基準監督署に駆け込めばおそらく認められないでしょうね)。その一方、割りたくて割る奴はいないのだからしょうがないとやり過ごす人もいます。
最近テレビで何回か連続で放映していた「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合シェフは後者のようで、先日も高いお皿をいっぺんに20枚も割ったことがあったそうです。怒りたくもなるでしょうが本人も謝っているし、割った皿が元に戻るわけでもないから泣く泣く「次から気を付けろよ」というしかなかったそうです。覆水盆に返らずという言葉は私も好きですね。
人材の流動化が激しい飲食業界においてこの落合さんのお店はなかなかスタッフが辞めないそうで、一番長い人で21年も一緒に働いているそうです。いくらマスコミに取り上げられるなどで有名でもその対極にあるお店もあり、また同じ業界で(料理ジャンルとして)やはりなかなかスタッフが辞めないお店もある中で、それはひとえにオーナーの人柄だなといつも思います。ちなみにそのようなお店が必要もない多店舗展開をしているのは、そうしたベテランスタッフにトップを任せる意味合いであるというのも共通しています。
加えて、落合さんのお店が成功している理由の一つは、経営的には当たり前のなのですが徹底して顧客の立場に立って考えているということです。その一環で、調理スタッフには必ずホールスタッフを経験させるということで、よくある調理場とホールの仲が悪いというのは思い切り内輪の論理であり、顧客目線ではないわけです。これができていない飲食店が実に多く、いまだにうまいものさえ作っていれば客は満足すると勘違いしている料理人が存在します。
また、よくよく話を聞いていると経営的には若干常識離れしているところもあるのかなと思います。店舗面積や客席数に比べると異常なほどのスタッフの多さ、料理長はオーナーシェフよりも給料が高い、まかない料理には店内にあるどの食材を使ってもよいなど、今話題の「俺のフレンチ」ではありませんが、高回転率がなせる技であろうとは思います。
が、いつも一消費者としてもコンサルタントとしても外食産業(特に個人店)の値付けが理不尽に高いと思っているので(その内部の経費構造を知っているので)、結局顧客に支持される店づくりというのはこういうパターンもその一つではないかと思っています。実際、落合さんは「レストラン経営なんでやるもんじゃない、全然儲からない」「自分はお店が有名になったことによって講演や執筆などの仕事で食っている」と言っています。
「企業は人なり」とよく言われます。ましてや人の要素がことさら強いサービス業にあってはその意味もより大きいです。割れた皿のことで目先の経費に目くじらを立てるより、もっと大局観を持って飲食店経営にあたったら、よりお客さんにも喜ばれるお店になるのではないかと思います。
2012年11月23日
厨房で割ってしまった皿の対処
posted by bourbon_ueda at 00:00
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